BUMP OF CHICKENの楽曲といえば、藤原基央さんが綴る歌詞に定評があります。
その歌詞に救われた、勇気を貰ったという人も多いはずです。
そこでこの記事では、藤原さんの歌詞の書き方や歌詞の特徴、魅力などについて紹介したいと思います。
作詞をしたいという方もぜひ参考にしてみて下さい。
藤原基央の主な作詞方法
作詞に使う道具
・作詞ノート・メモ
・ケータイのメモ
・iPadのメモアプリ
ケータイのメモは記録用ではなく、汚い自分の字をキレイな字で確認するために使っています。
作詞ノートからiPadへの変化
作詞をする時はノートやメモ用紙を使っていましたが、近年はiPadに初めから入っているメモアプリを使って作詞作業をしていると話しています。iPadを使ってから作業効率が格段によくなったそうです。
ただ自分の書いたものが形として残らないことが、残念だとも話していました。
ちなみに藤原さんが使用していた作詞ノートの一部は、ベストアルバムの時に使われたアーティスト写真で見れます。
出典:okmusic
①物語形式の歌詞
BUMP OF CHICKENの歌詞の特徴といえば、この“物語形式の歌詞”をイメージする人も多いと思います。
代表的な楽曲に「K」、「ダンデライオン」、「車輪の唄」などがあります。
今でこそこの物語形式の歌詞はそこまで珍しくないですが、バンドが物語形式の歌詞を書くというのを定着させたのはバンプだと思っています。
セカオワ(SEKAI NO OWARI)のSaoriさんは音楽人生を変えた曲に「K」を挙げており、「物語を曲にするってありなんだ」とバンプの常識破りの歌詞に衝撃を受けたそうです。
センスが要求される作業
ちなみに「K」を物語形式で書いた背景には、歌詞が書けない状態が続いていたので「いっそのこと物語形式にしてしまおう」と思ったことがきっかけでした。
もしかすると物語形式の歌詞は、ただ物語を歌詞にするだけの単純な作業と思う人もいるかもしれませんが、曲の尺的にすべての描写を書くわけにはいかないので、どこのシーンを切り取って、どういう言葉で表現するのかといったセンスが要求される作業です。
②過去基軸型の歌詞
「過去基軸型の歌詞」とは、藤原基央の幼少期の体験や記憶を軸に歌詞を書く手法です。
代表的な曲に「R.I.P.」や「魔法の料理~君から君へ~」などがあり、この手法で歌詞が書かれていた時期はアルバム『COSMONAUT』期に集中しています。
というのも、この頃は藤原基央が30歳になる節目の時期だったので、自然と過去を振り返ることが増えたのだと思います。
過去を懐かしむ為の手法ではない
この「過去基軸型の歌詞」は、単に過去を懐かしむものではなく、どうやっても過去に戻ることができないという事実が、今という時間のかけがえのなさに気付かせてくれるという、“今”を引き立たせる効果があります。
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③タイアップ曲の作詞方法
タイアップ曲を書く時に、藤原さんは昔からあるルールに基づいて歌詞を書きます。
それは、「BUMP OF CHICKENが描くフィールド」と「タイアップ作品の描くフィールドが重なる部分」を描くというものです。
これを一言でいうなら「お互いの作品の共通点を探す作業」とも言えますね。そしてこの【重なり合う部分】が大きいほど、相手とのマッチングが非常に良いということになります。
このルールは初めて主題歌制作を依頼された『ONE PIECE THE MOVIE デッドエンドの冒険』で、タイアップ曲を書いた「sailing day」の時からずっと一貫して続けてきたものです。
相手の作品に寄せた歌詞を書くことは、自分の作品に嘘を付いていることになります。なので決して相手に寄せることなく、両者の作品のイメージが湧くような作詞を藤原さんは心掛けています。
バンプはタイアップ泣かせ
タイアップとは、お互いのリスペクトや相手の作品に対する深い理解から実現することもありますが、売り上げなどの相乗効果を狙ったビジネス的な狙いももちろんあります。
例えば、映画「君の名は」の主題歌にはRADWIMPSの「前前前世」が起用されましたが、それによってRADWIMPSの存在を知ったという人も多いと思います。
タイアップにはこうした売上や認知度を上げる目的もありますが、バンプは相手の作品と重なる部分がない場合はタイアップを断ってるそうです。(ラッドがどういうスタンスなのかは不明)
藤原さんは「僕たちはタイアップ泣かせ」というコメントもしておりました。
ただ近年はタイアップ曲が非常に増えており、共通点を探す作業が上手くなってきたのではないかと思います。
・ファイナルファンタジー・・・ゼロ
・ドラえもん・・・友達の唄
・3月のライオン・・・ファイター、アンサー
・寄生獣・・・パレード、コロニー
・からくりサーカス・・・月虹
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④一つの言葉やテーマを追求した歌詞
「一つの言葉やテーマを追求した歌詞」は、一つの言葉やテーマを藤原さんなりに意味を突き詰めた内容の歌詞です。別な言い方をすると、書きたいタイトルが先に決まっているとも言えます。
例を挙げると「カルマ」とは日本語で“業”(ごう)という意味ですが、ちょっと意味がわかりにくいですし、マイナスなイメージを持っている人もいると思います。
「カルマ」は藤原さんがずっと書きたかったテーマで「カルマという言葉を肯定的に響かせることが詩人としての仕事」だと話しています。難解なテーマだったのではじめは書くことを躊躇していましたが、ゲームソフト「テイルズオブジアビス」の主題歌になったことで、ゲームが楽曲の意味を補足してくれると思い、制作に踏み切りました。
テーマを追求した曲には、優しさの意味を追求した「ひとりごと」、究極的に信じることを書いた「飴玉の唄」など、一つのテーマを追求した楽曲は多数あります。
R.I.P.・・・藤原が子供の頃に知った言葉でいつか書いてみたかったテーマ
メーデー・・・上と同じく、子供の頃に知った言葉で書きたかったテーマ
記念撮影・・・写真ではなく撮影するという行為の意味を表現した曲
⑤特殊な作詞方法
ケータイにメモしてあった言葉を繋ぎ合わせる
藤原さんの主な作詞方法ではありませんが、「花の名」ではケータイにメモしていた言葉をパズルのように繋ぎ合わせるという手法が使われました。
ちなみに藤原さんがケータイに、思いついた歌詞やフレーズをメモするのは忘れないようにするためではなく、キレイな文字で見たいからです。コラムのFujikiなど読んだことある人ならわかると思いますが、藤原さんの字は汚いです(笑)
彼は、本当に伝えたい言葉や大切なことは、メモを取らなくても覚えているという考えを持っています。重要か重要でないかの判断を時間に委ねているとも言えますね。
お題を貰って書く
COSMONAUT期、藤原さんがスランプの時にプロデューサーからお題を貰って曲を書いている時期がありました。
プロデューサーから「桜の歌を書いて」「クリスマスソングを書いて」などと言われて書いたこともあり、この二つのテーマは藤原が絶対書かないと思っていたテーマでしたが、お題を貰ったことで書き上げることができました。
藤原さんはこのことに対し「普段、自分では行かない所に連れて行ってもらったような感覚」だと話しています。
藤原基央の歌詞の特徴
君だけの歌
バンプの曲の魅力とも言えるのが、幾通りにも解釈できる歌詞です。
聴いた人それぞれがまるで自分のことを歌っているかのように解釈できる歌詞は、バンプオブチキンが掲げる「1対1の音楽」を象徴するものでもあります。
何よりも、多くの人が抱えてるであろう悩みや悲しみから個人的な些細な悩みでさえ、すごく理解してくれているような言葉がとても温かいのです。このことがリスナーとバンプの距離を縮めていることは間違いないでしょう。
余談ですが、藤原さんは「解釈は人それぞれのものがあっていい」と言っていますが、当然ながら本人の意図した意味が歌詞には込められています。インタビューでも度々ちゃんと伝わっているか心配しているので、作詞者としてはやはり歌詞の真意に気付いてもらいたいようですね。
行間を読む
藤原さんの書く歌詞は説明不足なところが多いです。本人も自分の歌詞を「行間を読んでくれ型の歌詞」と表現しているほどです。
「Aurora」の歌詞を例を挙げると、
振り返れば途切れずに 歪な線を描く足跡
悲しいくらい分かりやすく いつもここに向けて伸びる「Aurora」/BUMP OF CHICKEN
このフレーズだけで、主人公が何度も道に迷い、悩みながらも、諦め切れずに自分の道を歩き続ける切実な様子が伝わってきます。
藤原さんの歌詞にはこういった、言葉で説明していなくてもイメージできてしまう、秀逸な表現と言葉選びがあります。
おまけで「ゼロ」の歌詞からもひとつ、
命まで届く正義の雨 飛べない生き物 泥濘の上
一本道の途中で見つけた自由だ「ゼロ」/BUMP OF CHICKEN
ここでは《不自由》という言葉を使わずに、“飛べない”、“泥濘の上”、といった人間の不自由さを表現していて、その後の《自由》との対比になっています。
敢えて《不自由》という言葉を伏せることによって、一番伝えたい部分である《自由だ》という言葉が際立つ仕掛けになっています。
藤原さんの歌詞は全てが計算され尽くしています。
矛盾や対比を使った手法
矛盾や対比は本質を浮き彫りにする
藤原基央の書く歌詞の特徴として“矛盾や対比”を使うことが挙げられます。これは物事の本質を浮き彫りにする手法です。
例えば「HAPPY」という楽曲では、喜びと悲しみというプラスとマイナスという対比が描かれており「喜び+悲しみ=?」という、敢えて答えを書かないという構造になっています。
僕の作詞の特徴かなあとも思うんですけど、いくつか対比を出すことによって、でも本当にイコールどういうことかっていうのは書かないっていう
藤原基央
出典:bridge 2013 SPRING
なぜ答えを書かないかと言うと、答えをリスナーの解釈に委ねていることはもちろんのこと、藤原さんの書く歌詞の本質は“リスナーに気付きを与えること”だからです。
他人から「こうやって生きるべきだ!」と言われるより、自分で「こうやって生きるべきなんだ!」と気付いた時の方が、説得力も感動も桁違いですからね。
バンプの曲はよく背中を押してくれる曲と言われますが、正確には「自分で気づいて自分の背中を押す力をくれる曲」だと思います。
「HAPPY」では、喜びも悲しみも消えた後に残こる「幸せになりたい」という感情を浮き彫りにしており、人はどんな時も幸せを望む生き物だという本質を見事に表現しています。
今の大切さを歌っている
今の大切さを歌う歌詞は「ガラスのブルース」から一貫しているテーマですが、無責任に「明日のことは考えずに今だけに集中して生きろ」という歌詞ではありません。
特徴とも言えるのが、今を歌う時には必ず、過去や未来、始まりや終わりをイメージさせる言葉と一緒に書かれていることです。
今という時間は今だけは成り立ちません。過去や未来を意識して初めて浮き彫りになる時間なのです。藤原さんは絶対に嘘は書きません。だから今を歌う時には、過去や未来などをイメージするものと一緒に書くのです。
歌詞を見る時に、そういう所にも着目すると面白いかもしれません。
さいごに
まだまだ藤原基央の歌詞の素晴らしさを語りたいのですが、長くなってしまったのでここで締めたいと思います。
藤原基央の伝えたいという思いと妥協したくないというスタンスを貫いた結果、このようなレベルの高い歌詞になったのだと思います。
バンプの曲を聴く際に、少しでも藤原さんの歌詞の素晴らしさや深さに気付いて貰えれば幸いです。