今更ながら米津玄師(よねづけんし)さんのシングル「Lemon」(レモン)の歌詞の意味を考察してみようと思います。
ただ私自身、米津さんの楽曲はほぼ聴いたことないに等しいので、至らぬ点があるかもしれません。
私に取って米津玄師はバンプに憧れている人という認識しかありませんでしたが、「Lemon」の歌詞を見て天才性を感じ感想を書かずにはいられませんでした。
この曲は2018年上半期もっとも歌詞を見られた楽曲で1位になりました、それほどこの曲の歌詞は多くの人の関心を集めているようです。
Lemonの楽曲解説
祖父の死が曲を普遍的なものにした
画像:orozu-do.com
『Lemon』はドラマ「アンナチュラル」の主題歌として書き下ろされました。
そこで米津さんがプロデューサーから依頼されたテーマが「傷ついた人たちを優しく包み込むような曲」というものでした。
米津さんは楽曲作りの中で死を重要視しているため、ドラマと自然と重なる部分があり「自分ならこのドラマの音楽を作れる」と思ったそうです。
しかし出来上がった曲は、ただひたすらあなたが死んで悲しいと歌ってる曲になり、個人的な曲になってしまったと話しています。
制作中に米津さんのおじいさんが亡くなってしまいましたが、それが影響して「普遍的な曲になった」とも話しています。
「普遍的なものになったな」っていう意識も確かにあって。それは、じいちゃんが死んだということに対して、じいちゃんに作らせてもらった、そこに連れてってもらったのかなって感じもありますね。
米津玄師
出典:natalie
なぜタイトルを「Lemon」にしたのか?
実はこの曲の仮タイトルは『メメント』だったそうです。メメントとは形見や思い出と言った意味で、人の死をテーマにした曲のタイトルが『メメント』ではあからさま過ぎると思ったようです。
《胸に残り離れない 苦いレモンの匂い》というフレーズが自然と浮かんできて、他の言葉も考えたけどこれじゃなきゃいけないと感じた米津さんはタイトルを『Lemon』に決めました。
ラストの《切り分けた果実の片方》というフレーズは歌をレコーディングする前日によくわからず書きましたが、書いた瞬間に「あ、なるほど」と思ったそうです。
なんだか難解な歌詞だと思いましたが、米津さん自身にとってしっかりと芯の通った歌詞になっているようです。
米津さんは果物の「皮」「肉」「種」という構造が人間と似ていて、色も鮮やかでという理由でくだものを使うことが多いそうです。
人間を人間以外のものに置き換えることでしか表現できない美しさがあると話していました。
歌詞解釈と意味
ここからは私の歌詞の意味の解釈になります。
『Lemon』という曲は人の死がテーマになっていますが、歌詞を見てみてもどこにも『死』というワードは入っていません。予備知識がなければ“失恋ソング”として捉えてしまう人が多いのではないかと思いました。
『普遍的なものになった』というのも、そういった失恋などの意味を含んでいるのではないでしょうか?
死とは言い換えれば“終わり”です。そう考えればいろんなものが死になります。
恋愛の終わり、学生時代の終わり、人との別れ、肉体の寿命・・・
(オリンピック選手の)選手生命は、ものすごく短い。でも、近い将来、選手生命を終えるという“死”があるから、計り知れない情熱を注ぐ。そういった美しい瞬間やものを作るには、死に対する哲学がないと、足腰が立たないものになってしまう気がします
米津玄師
出典:oricon
インタビューで米津さんもこう答えているように、人間の肉体としての死だけでなく、いろいろなものの終わりとしての死という意味を含んでいるのがわかります。
人は大切なもの、例えば恋人や家族を手にした時、同時にいつか失う可能性が出てきます。だからこそ人はその人との時間を大事にしようと思えるし、今という時間がかけがえのない大切なものだと気づくのです。
苦いレモンの匂い
いきなりですがレモンの匂いって爽やかですよね?でも歌詞には《苦いレモンの匂い》とあります。
私はこれが歌詞のキーワードだと思っています。
大切なものができた時、例えば好きな人ができた時って、もうそれだけで世界が明るくなって、毎日がドキドキで楽しくなると思います。そういう時の気持ちってレモンのように色の鮮やかですよね。
でももしそれを失ってしまったら、世界も心も暗くなってしまいます。
本来は爽やかなものであるはずのレモンが苦くなってしまった。《胸に残り離れない》と言っているので、レモンは心の状態を表しているんですね。
この曲はひたすら「あなたがいなくなって悲しい」ということを歌っていますが、逆説的に「あなたがいた時のことを思い出している」のです。死をテーマにしながらもレモンというアイコンを使って人の心と今にフォーカスを当てているのです。
人間っていうものを、別のものに置き換えることによって、それでしか表現することのできない美しさってあると思ってて
米津玄師
出典:billboard
歌詞の《あなた》を死に置き換えてみる
「終わりや死」があるから今という時間がかけがえない大切ものだと気づくと話しましたが、『Lemon』の歌詞に出てくる《あなた》を「終わりや死」と置き換えてみて下さい。
不思議なことに意味が成り立ちます。むしろそうすることで“今や心”が際立って浮き彫りになるのがわかると思います。
《未だに死のことを夢に見る》こう考えると死を意識してるという意味合いになり、死を意識したから大切な思い出を思い出したという文になります。
《その全てを愛してた死とともに》サビの部分も死に置き換えることで、いつかくる死を意識したから、苦しみや悲しみも愛おしいものになった。これは米津さんが話してたオリンピック選手のこととも繋がりますね。
“選手生命を終えるという“死”があるから、計り知れない情熱を注ぐ”スポーツ選手に限ったことじゃありませんが、結果を出せないことって苦しみや悲しみになるわけですが、それがあるから強くなろうと思えるんですよね。
つまり歌詞に出てくる《あなた》とは「終わりや死の象徴」として機能しているのです。そしてそこで浮き彫りになるのは「心と今」です。
切り分けた果実の片方
切り分けた果実の片方のように
今でもあなたはわたしの光
「Lemon」/米津玄師
このフレーズは米津さんが最後に書いた歌詞で、書き終えた時に「あ、なるほど」と曲に教えてもらったと話していますので、このフレーズが歌詞全体に息を吹き込むような、全てを総括したものになっているはずです。
このフレーズがこの作品を文学的にさせていると感じました。しっかり起承転結の結の役割を果たしているし、なによりレモンって言葉自体が文学的なイメージがありますからね。
《切り分けた果実の片方》とはつまり“死”です。そしてもう片方が“生”つまり自分です。
切り分けたものなので元々は一つです。人は生まれた瞬間に死に向かっています。
切り分けたものはもうくっつけることはできません、人も生きながら死ぬことはできないのといっしょで生と死が別々のものでありながらも二つ揃って意味を成すことを表しています。
ここでももちろん《あなた》を「終わりや死」に置き換えることができます。
まとめると「あなた」=「終わりや死」=「光」です。
光ってよく人生に迷った時の道を照らすものとして表現されますが、これも先ほど説明したように死があるから大切なものに気づくということに繋がります。要はその大切なものが光なわけですけど、死がなければ輝かないんですよね。
死が光だなんて表現するとちょっと怖い感じがしますけど米津さんもそう感じているようです。
<今でもあなたはわたしの光>っていうのは希望的でもある反面、自分として残酷に思うところでもありますけどね。
米津玄師
出典:billboard
米津玄師の異常な作詞力
こんな感じで私の解釈を書きましたが、とても一貫性のある歌詞だということがわかると思います。
BUMP OF CHICKENに強く影響を受けていると話す米津さんですが、『Lemon』の歌詞を見るとバンプの名曲『天体観測』にテーマが似ていると感じました。
『天体観測』も心という言葉を使わずに《望遠鏡》というアイコンを使って見事にそれを表現した作品です。
米津玄師はたしかにバンプの影響を受けています、しかし彼の綴る歌詞はパクリではなくバンプを糧に完全に自分のオリジナルなものへ昇華させています。
難解な歌詞ながらも多くの人の心を捉えて離さないのは、曲が人間の持つ本質的な部分とリンクしているからだと思います。
彼はただ単純にバンプの歌詞をパクるのではなく、バンプの本質を盗んで自分のものにしたのです。本当にすごい人というのは真似事ではなく本質を盗むことができる人です。
名曲を次々と世に放っていく彼の音楽に目が離せませんね!今後もこのブログで紹介したい曲があれば書いていこうと思います。