BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)の楽曲「新世界」(しんせかい)を公式情報やインタビューを元に解説していきます。この記事では楽曲の解説や歌詞の意味の考察、制作背景などについてご紹介します。「新世界」を聴く際に参考にして下さい。
歌詞の考察では特に《ベイビーアイラブユーだぜ》の意味にフォーカスして解説しております。
参考
- CUT 2018年11月号、2019年7月号
- ロッキングオンジャパン 2019年8月号
- BUMP OF CHICKENのPONTSUKA 2019年1月6日、20日放送回
BUMP OF CHICKEN「新世界」の楽曲情報
BUMP OF CHICKEN「新世界」の基本情報
タイトル | 新世界 |
発売日 | 2019年7月12日 |
作詞作曲 | 藤原基央 |
収録アルバム | aurora arc(9th Album) |
タイアップ | ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション『ベイビーアイラブユーだぜ』テーマソング |
BUMP OF CHICKENの「新世界」はアルバム『aurora arc』に収録されている楽曲です。
非常にポップで踊りたくなるような心地よいサウンドが特徴的な曲です。歌詞は一見すると、調子の良い言葉ばかりが並んでいるように感じますが、実際はスケールがとても広く、奥行きがある深い歌詞です。
BUMP OF CHICKEN「aurora arc」のアルバム楽曲情報と制作背景へ
「新世界」の制作背景
2度目のBUMP OF CHICKEN×川村元気
川村元気 引用/ダイヤモンド・オンライン
映画プロデューサー川村元気の依頼で藤原は「話がしたいよ」を映画『億男』に書き下ろしました。
その直後に再び川村元気から、ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション『ベイビーアイラブユーだぜ』のテーマソングの作曲を依頼されたことがきっかけで「新世界」が制作されました。(確定情報ではありませんが十中八九当たっていると思います)
川村は藤原に無茶ぶりしたにも関わらず、出来上がった曲の歌詞を見て「170点くらいの解答の歌詞が返ってきた」と絶賛しています。
紙鉄砲の音が使用された
「新世界」のサウンドには紙鉄砲をサンプリングした音が使用されています。レコーディングの様子がチャマのインスタに投稿されています。
曲中で聴こえる「パッパンッ!」という音が紙鉄砲で、言われなければハンドクラップ(手拍子)にしか聴こえないかもしれないかもしれません。最終的に使用した紙はA4サイズのメモ用紙。
チャマが「月が綺麗ですね」とツイート
2018年10月24日にベースの直井由文ことチャマが自身のツイッターにて「月が綺麗ですね」とツイートしていました。
月が綺麗ですね
おやすみなさい©︎— CHAMA (@boc_chama) 2018年10月24日
「月が綺麗ですね」とは「I love you」という意味で、小説家・夏目漱石が英語教師をしていた時に、生徒が ” I love you ” を「我君を愛す」と訳したことに対し、「日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったとされる逸話から。
情報解禁前だったので、チャマが遠回しに新曲のことをファンに伝えたかったのかもしれません。もしかすると、歌詞の意味に対するヒントをくれたのかもしれません。(考察の方で後述します)
周囲からの反応
タイアップの作品名と同じく「新世界」の歌詞には《ベイビーアイラブユーだぜ》というフレーズが使われています。藤原があまり使わなそうな言葉だったため、周囲の人からも「ベイビーアイラブユーだぜってついに言ったねえ」と言われたそうです。
しかし藤原からすれば「涙のふるさと」で《会いに来たよ》と書いた時と同じ感覚で、周りがそういった感想を持ったことに驚いていました。
ロッテCM「ベイビーアイラブユーだぜ」とタイアップ
ロッテ創業70周年SPアニメ「ベイビーアイラブユーだぜ」 | |
企画・プロデュース | 川村元気 |
監督 | 松本理恵 |
キャラデザイン | 林祐己 |
アニメ制作 | ボンズ |
テーマソング | 「新世界」/BUMP OF CHICKEN |
BUMP OF CHICKENの「新世界」はロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション「ベイビーアイラブユーだぜ」のテーマソングとして書き下ろされ、アニメは2018年12月12日のFNS歌謡祭のCMで一夜限り公開されました。
同年12月5日に公開された「ベイビーアイラブユーだぜ」予告編で流れた曲には、曲名、アーティスト名のクレジット表記がなく「この曲の歌声は藤原基央では?」とツイッターで話題になりました。
BUMP OF CHICKEN「新世界」の歌詞の意味
「新世界」の“ベイビーアイラブユーだぜ”の意味を考察
《ベイビー》と《だぜ》が付いていることが鍵となっている
アイラブユーって単語だけを歌うとしたら、また違うニュアンスなんですよね、自分の中で。「ベイビー」がついて「だぜ」が付くと、自分の表現になるんですよね
藤原基央
出典:ROCKIN’ ON JAPAN 2019年8月号
この発言からわかるように、《アイラブユー》に《ベイビー》と《だぜ》が付いていることにこのフレーズの真意があることがわかります。この言葉は作詞の自然な流れで出てきたそうです。
・ベイビーアイラブユー
・ベイビーアイラブユーだぜ
こうして3つ並べてみると、なんとなく伝わってくるイメージの違いを感じます。
“だぜ”ってフレーズが付くとなんか自分に自信があるような言い回しにも聞こえて、“あなたを愛していることが自分にとって誇らしいこと”みたいな意味にも解釈できますし、逆に“照れてる”ようなニュアンスも感じます。
しかし、英語の後に《だぜ》が使われれていること自体、おかしな文章です。でも実はこれ、英語の「I love you」じゃないんです。
一般的な意味のアイラブユーではない
《ベイビーアイラブユー》という文は、単語ごとに分けると
「baby」+「I」+「love」+「you」
の4語から成り立っています。
しかし、語尾に《だぜ》や《だ》が付いているので、“ベイビーアイラブユー”は一つの単語、一つの名詞として機能しています。つまりここでの“ベイビーアイラブユー”は一般的な“アイラブユー”とは違う意味合いを持った一つの単語なのです。
《アイラブユー》だけど《だぜ》なんだけどなって(笑)。しかも《だぜ》のあとに、もう一回ていねいに《だ》って言っているんだけどな
藤原基央
出典:CUT 2019 JULY
意味がわかっていないからこそ成り立つ言葉
例としては、私たち日本人はスポーツのプレイ中にミスした人に「ドンマイ」(気にしないで)という言葉を使いますが、おそらく「ドンマイ」の意味をいちいち考えながら話す人はあまりいないと思います。「ベイビーアイラブユー」もこれに近い感覚だと思います。
それは本来の意味を考えずに、感覚として使っている言葉。「ドンマイだぜ」というセリフは自然に聞こえますが、「気にしないでだぜ」だと不自然な響きになってしまいます。
「ドンマイだぜ」も「ベイビーアイラブユーだぜ」、他にも「ファイトだぜ」なども、本来の意味を意識していないから成り立つ文章なのです。
“愛”の意味を一つの言葉で伝えることはできない
何が言いたいのかというと、ここで言う《ベイビーアイラブユー》は「Baby, I love you」(あなたを愛しています)という意味ではなく、よくわからない言葉という意味で使われているのです。それゆえロボット言葉のようにカタカナで書いてあるんだと思います。
そもそも「愛」という言葉自体、過去に何人もの著名な人が自前の哲学を語るほど、形の決まっていない定義されていない言葉なのです。
つまり、この曲において《ベイビーアイラブユーだぜ》というセリフは、「愛ってなんとなく意味はわかるけどうまく表現できないもの」として、感覚を伝える言葉として使われているのです。
だって親切にも冒頭で《頭良くないけど》って言ってますからね。頭は良くないから言葉にできないけど、感覚として“愛”の意味に気付いた僕は天才かもという表現なんでしょうね。
世にたくさん出ている《アイラブユー》を書いたね、みたいに言われるんですけど、全然そういうものだとは思ってなくて
藤原基央
出典:CUT 2019 JULY
この《ベイビー》と《だぜ》は、単なる“アイラブユー”の意味ではないことを強調する言葉だったのです。
簡単に言ってしまえば、「ベイビーアイラブユーだぜ」という言葉には、一言で言い表せないさまざまな種類の愛が込められているってことですね。
BUMP OF CHICKENの「新世界」とはなんなのか?
失いたくないという感覚によって輝く世界
出典:youtube.com
君と会った時 僕の今日までが意味を貰ったよ
「新世界」/BUMP OF CHICKEN
この歌詞はこの曲の全てを象徴するフレーズだと思います。
「新世界」の歌詞は全体を通していろんな事例を挙げて、君という存在がどれほど大切で愛おしい存在なのかを歌うことで“自分に取っての愛とはこういうものだ!”と説明しています。
夏目漱石が「I love you」の意味を“月が綺麗ですね”と訳したように、「新世界」は藤原基央の愛の解釈を綴った歌詞なんだと思います。
親が自分の子を大切にしたいという気持ち、好きな異性のことを想う気持ち、友達を助けたいという気持ち、亡くなった人を愛おしいと思う気持ち・・・人は大切なものを失いたくないという気持ちがあるから生きていけます。
《もう一度眠ったら 起きられないかも 今が輝くのは きっと そういう仕掛け》
私たちは無意識の内に、愛するものを失いたくないと思っているから今を大切にしたいと思えるのです。もし人が生きる理由を無くしたら、ずっと寝たままだと思います。なぜなら起きる理由がないからです。
愛の意味を突き詰めると根源的な宇宙に行き着く
いつの日か 抜け殻になったら 待ち合わせしようよ
どんなに遠く離れても 宇宙ごと抱きしめるよ「新世界」/BUMP OF CHICKEN
《抜け殻》とは“喪失”や“死”をイメージできますし、同時に“魂の抜けた肉体”もイメージできます。そう考えると《待ち合わせしようよ》は、「魂だけになったら一つになろう」とも解釈できます。
やはり愛について説明するには、生きてる部分だけじゃなく、死生観や生命の根源的なところまで突き詰める必要があると思います。
「見えてる世界」と「見えない世界」の二つで世界は存在している
私たちの世界には、“見えてる世界”と“見えない世界”の相反する世界が2種類が存在します。この2つが1つになって初めて世界は存在することができます。
見えない世界を信じられないという人もいると思いますが、霊的なもの以外にもエネルギーや概念、愛のように、目に見えなくても確かに存在するものはたくさんあります。
《宇宙ごと抱きしめるよ》というフレーズには、“見えてる世界”と“見えない世界”のように、こういった相反する事象の全てを肯定するという意味だと思います。
ネガティブな部分がなければその存在は嘘になる
「生と死」のように“死”のない人生は決して輝きませんし、「獲得と喪失」のように、喪失が無ければ愛おしいという気持ちは決して生まれません。
このように相反する2つの事象があるから全ては意味を持つのです。今が輝くのもそういう仕掛けなのです。
一般的にネガティブだと言われていること、「喪失」「死」「弱い」「悪」などを認めることができた時に初めて、全ては意味を持つのです。
「リボン」という楽曲の歌詞にこんなフレーズがあります。
同じ時に震えたら 強くなれた 弱くなれた
「リボン」/BUMP OF CHICKEN
自分の弱い部分を認めることができたから強くなれた、「リボン」でもやはりネガティブな部分も認めることの大切さが書かれています。
2つの相反する事象を愛せた時に見えるものが「新世界」なのだと思います。
物事の良い部分しか見なかったらそれは嘘になります。人生は笑ったり泣いたりがあるから輝くのです。
愛とは存在を認めること
私は、愛とは存在を認めることなんだと考えています。ちょっと何言ってるかわからないと思いますが、この記事を通して何となくでもいいので理解してもらえたら幸いです。
人は生まれる時にまず“生”を与えられます。私たちは生まれた瞬間に既になにか獲得した状態からスタートするのです。同時に生まれた瞬間に“死”という生の喪失の可能性が始まっているのです。
だから人がまず最初にすることは、自分自身を愛することなんだと思います。