BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)の楽曲「ロストマン」を公式情報やインタビューを元に解説していきます。この記事では楽曲の解説や歌詞の意味、制作背景などについてご紹介します。「ロストマン」を聴く際に参考にして下さい。
BUMP OF CHICKENのアルバム『ユグドラシル』楽曲一覧へ
参考
- トーキンロック 2003年1月号、2004年 9月号
- ROCKIN`IN ON JAPAN 2003年3月号 2004年1月、8月、9月号
- bridge 2004年8月号、2013年SPRING
BUMP OF CHICKEN「ロストマン」の公式情報
BUMP OF CHICKEN「ロストマン」の基本情報
タイトル | ロストマン(6th single) |
カップリング | sailing day |
発売日 | 2003年3月12日 |
作詞作曲 | 藤原基央 |
完成時期 | 2002年10月 |
収録作品 | ユグドラシル(4th Album) BUMP OF CHICKEN I<1999-2004>(Best Album) |
タイアップ | 『第95回箱根駅伝 箱根駅伝その先へ』CMソング |
BUMP OF CHICKENの「ロストマン」は通算6枚目のシングル「ロストマン/sailing day」に収録された楽曲です。バンプの歌詞で初めて《迷子》が使われた楽曲であり、藤原がこの曲の制作を通して得た経験が後の作品にも影響を与えていると思われます。
前のシングル | 現在 | 次のシングル |
スノースマイル(5th Single) | ロストマン/sailing day(6th Single) | アルエ(7th Single) |
「ロストマン」の制作背景
作詞にかかった9ヵ月
アルバム『jupiter』の制作期終盤である2001年1月に藤原は「ロストマン」の歌詞のイメージを思いつきます。まずオケを完成させ、奄美大島を旅行中にメロディを完成させますが、歌詞だけが書けない状態が続きました。
今までの藤原なら、歌詞が書けない時は別の曲を作っていたりしましたが、この曲に関しては効率が悪いとわかっていても、1曲の制作に集中しないと書きたい言葉に出会えないとわかっていたようです。
“その作業をやらねえと絶対に、言葉の片麟に会えないっていうのが分かってたんだよね”
藤原基央
出典:ROCKIN`IN ON JAPAN 2003.03
藤原は自分から生まれた曲が求める言葉なので、絶対に自分が知ってるはずだと考えました。迷い続けてきたこの9カ月間は“書きたい言葉を知ってる自分”に出会うための長い旅だったのです。
30曲分のタイトルが死んでいった
「ロストマン」の初期のタイトルに「シザーズソング」や「ジャングルジム」などありましたが、曲の求める歌詞じゃないという理由で破棄されました。他にも1,2行の歌詞を書いては捨てた曲もたくさんあり、最終的に約30曲分のタイトルが死んでしまいました。
しかし、殺してしまった30曲分のフレーズは「ロストマン」の歌詞に集約され、集大成になったとコメントしています。
30曲分くらい殺してきたつもりだったけど、結局殺すことはできなかった、その1行に集約されて、もっと輝きを放っていたんだなっていうね。それで「ロストマン」て言葉を紡ぎだしたんだなっっていうのに俺は凄く——自分でやってきたことだけど、凄く驚いたし、救われた
藤原基央
出典:ROCKIN`ON JAPAN 2003.03
ロストマンのMV情報
「ロストマン」MVの一部より
ロストマンのMV情報 | |
監督 | 番場秀一 |
撮影場所・ロケ地 | 伊豆大島 裏砂漠(東京都) |
出演 | BUMP OF CHICKEN |
「ロストマン」のMV(PV)は番場秀一監督が手掛け、曲の持つテーマである「大いなる喪失」、「遥かなる旅立ち」を表現した作られた作品です。
撮影は東京から伊豆大島の黒い火山岩で覆われた「裏砂漠」で行われました。
BUMP OF CHICKEN「ロストマン」の歌詞の意味
「ロストマン」の曲のテーマ
「ロストマン」で藤原が描きたかったことは「思い出」です。ありふれたテーマですが、他のアーティストとは違う価値観それを表現しようとしました。それが【思い出を切り取る】という感覚でした。それは写真のフィルムのコマの一つを切り取るようなことだと藤原は話しています。
それゆえに当初のロストマンのタイトルは「シザーズソング」であり、「思い出を切り取る」という感覚が藤原にとって重要なことなのがわかります。
“切り取るってのは特別な感覚で、凄く。で、それを書きたかったの”
藤原基央
出典:ROCKIN`IN ON JAPAN 2002.03
「ロストマン」の歌詞の内容
1番の歌詞が生またきっかけ
“状況はどうだい 僕は僕に尋ねる
旅の始まりを 今も 思い出せるかい”「ロストマン」/BUMP OF CHICKEN
当時、歌詞が書けずに悩んでいた藤原の自宅に、ディレクターが心配をして顔を出しました。いろいろ話をしてディレクターは帰りましたが、帰り際に「お前ちゃんと寝ろよ」と言われたことがきっかけで藤原は《状況はどうだい》というフレーズが浮かびました。
当然のことながら、その言葉は上手くいっていない自分自身に向けての言葉でした。なのでそのあとに《僕は僕に尋ねる》という歌詞が続きます。
“俺の中から生まれてきた音楽が必要としている言葉っていうのは、俺が知ってるはずだから。その言葉を知ってる俺に、詩人としての俺が語りかけてんのかもしんないな”
藤原基央
出典:ROCKIN`IN ON JAPAN 2003.03
歌詞が書けない自分の状況を書いた
生まれてきたそのフレーズも藤原は他の30曲と同じように殺してしまうものだと思っていました。その時に死んでしまった30曲を思い出し《旅の始まりを 今も思い出せるかい》と続きの歌詞が浮かびました。
藤原が書いたこの歌詞はただ詞が書けない自分の今の状況を表した情景描写でしたが、同時に深層心理まで表現した言葉だと思い「よし!間違いじゃない、間違いじゃない。迷ってない迷ってない」と自分に言い聞かせました。
自分の歌詞が正しいと思う覚悟を決めた
藤原は《状況はどうだい》の歌詞のまま書いていく覚悟を決め、その歌詞のまま少しずつですが書き進めていきました。ずっと1,2行歌詞を書いては殺してきましたが、藤原は自分の書いた言葉を正しいと思う覚悟を決めたのです。
“なんか腹を括った感じっつうか、そのベクトルへ向かっていく覚悟になったっつうか”
藤原基央
出典:ROCKIN`IN ON JAPAN 2003.03
答えを知っている自分に出会ってからは客観的な自分と主観的な自分をバランスよく頭の中に置いて、ペンが走るままに「ロストマン」を書き上げました。こうして9カ月にもおよぶ作詞の旅は無事に終わりました。
ロストマンで伝えたいこと
「ロストマン」のタイトルには【迷子】と【喪失した人】という2つの意味がありました。【喪失】をテーマにしたのはその逆にある【獲得】という感覚を書きたかったからです。
人は何かを失った時に【喪失】という感覚を【獲得】しているのです。喪失感がなければ何かを手に入れようと思うことはありません。【喪失】という感覚は何かを手に入れたり、愛おしいと思う為に必要なものさしと言えますね。失って大切だと思わなければそれまでだし、失って大切だと気づけばまた愛せるはずです。
“喪失っていう、ひとつの財産を手に入れてるからだよね。だから、もう1回会いに行けるなと思ったんだよ。愛せた時は会いにいけるなと”
藤原基央
迷子のままでも大丈夫
たとえ間違った道を進んでも正しさを祈ってる間は間違いにはなりません。
どれだけ失敗しようと成功することを諦めなければ希望は消えないのです。つまり「自分は正しい」という感覚を持っていればどれだけ迷っても間違っても大丈夫だというわけです。これは「乗車権」での“自分がここに居る為に必要なもの”という考えに似ています。
“祈ることをしなくなった段階で、正しくても間違いになるわけで。「俺は正しいぞ」という気持ちは、いつだって強く持っててかまわねえんだなとも思えたし”
藤原基央
出典:ROJ 2003.03
終わりのない旅をイメージしたサウンド
曲のサウンドは飛行機に例えるなら離陸する瞬間と飛行中の時間をずっと鳴らし続けています。つまり目的地に着陸するところまでは表現していないということです。なぜならこの曲は迷子と喪失をテーマにした「ロストマン」だからです。
いつ辿り着くのかもわからない道を「自分は正しい」という感覚を信じて歩き続ける様子が力強く描かれています。
思い出を切り取るということ
「ロストマン」ではなぜ「思い出」ではなく「思い出を切り取る」ことを書きたかったのでしょうか?「飴玉の唄」でも歌われているように、藤原は「お別れしないと思い出にならない」という考えを持っています。
“忘れたのは 温もりさ 少しずつ冷えていった
どんなふうに夜を過ごしたら 思い出せるのかなぁ”「ロストマン」/BUMP OF CHICKEN
ロストマンの歌詞で「どうやったら思い出せるのか?」という疑問に対し取った行動が「さよならを告げる」ことでした。なぜならお別れしないと思い出せないからです。
思い出になる時は気持ちと別れた時なのです。
思い出になる瞬間
例えば「ディズニーランドで遊びたいという気持ち」があったとします。ディズニーランドで遊んだことが思い出になるのは、その気持ちが過去になった時ですよね。
間違ってもディズニーランドで遊んでいる最中に「ディズニーランド楽しかったなー」という気持ちには絶対なりません。
なぜなら遊んでいる間はまだ「気持ち」といっしょだからです。ディズニーランドで遊び終わって帰る時に、「ディズニーランドで遊びたいという気持ち」にお別れをして、同時に「ディズニーランドで遊んだ」ということを思い出せるようになるのです。
“強く手を振って 君の背中にサヨナラを叫んだよ”
「ロストマン」
《サヨナラ》とカタカナで表記されているのは「切り取ったこと」と「思い出になったこと」の比喩だと考えられます。「気持ち」とお別れすると、それを切り取った場所に空っぽができるのです。つまり喪失です。
気持ちに別れを告げたら「ディズニーランドで遊んだ思い出」という名前で自分の記憶を検索するとその時の映像(絵)を思い出すことができます。ネットで検索するときにキーワードを入力するのに似てますね。人は特定の何かを思い出す時は記憶の中に「思い出の名前を入力」しなければ思い出すことはできないんです。
記憶を思い出すために必要なその「思い出の名前」は、僕と気持ちが思い出の中で出会うための秘密の合言葉みたいなものかもしれませんね。
“あぁ ロストマン 気付いたろう
僕らが 丁寧に切り取った その絵の 名前は 思い出”「ロストマン」/BUMP OF CHICKEN
今を思い出すことはできない
「思い出」と「喪失」って実は密接に関係していたのです。そして「喪失」や「思い出」があるから“手に入れたい”と思ったり、“再会したい”と思うことができるのです。藤原が思い出をテーマにしたと言いながら喪失を意味する「ロストマン」というタイトルになったのはこういう理由だったのです。
人が思い出せるものは“今ここにないもの”ばかりです、“今ここにあるもの”を思い出すことはありません。私たちは無意識に気持ちとお別れして切り取っているのです。
BUMP OF CHICKEN「ロストマン」のライブ情報
「ロストマン」のライブ演奏記録
初披露日時 | 2003年5月13日(火) |
初披露ライブ | NINJA PORKING@横浜ベイホール (神奈川県) |
演奏頻度 | ] |
「ロストマン」のライブでの演奏頻度は低めです。リリース当初の2003年~2004年までは頻繁に演奏されていますが、それ以降はほとんど披露されていないレア曲です。2016年の結成20周年記念ライブ「20」では約10年ぶりに演奏されました。
「ロストマン」が収録されているライブ映像作品
収録作品 | 備考 |
結成20周年記念Live「20」 |