BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)の楽曲「ジャングルジム」を公式情報やインタビューを元に解説していきます。
この記事では楽曲の解説や歌詞の意味の考察、制作背景などについてご紹介します。「ジャングルジム」を聴く際に参考にして下さい。
BUMP OF CHICKEN「aurora arc」のアルバム楽曲情報と制作背景へ
BUMP OF CHICKEN「ジャングルジム」の楽曲情報
「ジャングルジム」の基本情報
タイトル | ジャングルジム |
発売日 | 2019年7月10日 |
作詞作曲 | 藤原基央 |
完成時期 | 2017年1~2月頃 |
収録アルバム | aurora arc(9th Album) |
タイアップ | ‐ |
BUMP OF CHICKENの「ジャングルジム」はアルバム『aurora arc』に収録されている楽曲です。
藤原基央単独の弾き語りの楽曲になっていて、童謡のような響きも感じる曲です。
「ジャングルジム」の制作背景
アレンジが決まらず2年間寝かされていた
「ジャングルジム」を書いたのは2017年1~2月頃(おそらく2月)で、2カ月の間に「リボン」、「流れ星の正体」、「記念撮影」の合計4曲を書いています。
特にタイアップの予定もなく完成させた曲でしたが、デモだけは録ったもののアレンジが決まらずにずっと寝かせたままになっていました。
その後、バンプはツアーやタイアップなどで繁忙期に入り、ほぼちょうど完成から2年経った2019年2月頃に再びデモを録ると、メンバーからの意見もあり「弾き語り」という形に収まりました。
ロストマンの仮タイトルだった曲との関係は?
ロストマン制作過程で生まれた曲に「ジャングルジム」というタイトルがあった
藤原基央が作詞に9ヶ月も掛かったという「ロストマン」(2003年)という楽曲があります。
ロストマンの制作過程では約30曲分のタイトルが、完成されないままボツになりました。その中に「ジャングルジム」という『aurora arc』収録のものと同タイトルのものがありました。
途中でボツにしてしまった曲がほとんどでしたが、「ジャングルジム」と「シザーズソング」という曲だけは歌詞を完成させましたが、到達点が違うという理由でボツになりました。
なので正確な言い方をすれば、「ジャングルジム」は「ロストマン」の仮タイトルではなく、「ロストマン」になれずに藤原が殺してしまった楽曲です。
“ロストマン”は最初“シザーズソング”ってタイトルだったのね。“ジャングルジム”っていうのもあったな
藤原基央
出典:ROCKIN`ON JAPAN 2003 MARCH
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旧「ジャングルジム」は子供のまま成長できずにいる歌
(旧)「ジャングルジム」で書かれたテーマは、
〈いまだにジャングルジムの中から出れない自分〉と〈ジャングルジムの中に入っていけないぐらいの大きさになってしまった自分〉の対比を描いた曲でした。
要は、いつまでも子供のまま遊んでいたら、体だけが大きくなってしまい、外に出られなくなってしまったという意味だと思います。藤原は“ジャングルジムと言う名の檻”という価値観があったと話しています。
「ジャングルジム」(旧)と「ジャングルジム」(新)は関係ない
MUSICA2019年8月号のインタビューにて藤原さんが公式に「昔のジャングルジムとは関係ない」とコメントしていました。
昔から“ジャングルジム”というモチーフや言葉の響きが好きだったようで、再び同じタイトルが出てきたことは自然な流れだったようです。
余談ですが、藤原さんはジャングルジムの上に立つよりは中で囲まれている感じが好きだったそうです。
それは(旧ジャングルジム)今回の“ジャングルジム”とは全然関係ない。内容的にも全然違う話だし
藤原基央
出典:MUSICA 2019.08
内容こそ昔と違えど、「ジャングルジム」というタイトルを正しい姿で完成させたことは、間違った旅路の果てに、曲の完成という正しさと再会を果たした曲と言えるのではないでしょうか。
旧「ジャングルジム」は榎本くるみさんに楽曲提供していた?
榎本くるみという歌手をご存知でしょうか?
榎本くるみさんは過去に藤原基央から「冒険彗星」という曲を楽曲提供されていて、アニメ「テイルズオブジアビス」のエンディング曲に使用されました。
テイルズオブジアビスといえばBUMP OF CHICKENの「カルマ」が主題歌になった作品ですね。
そんな榎本くるみさんのアルバム『NOTEBOOK I〜未来の記憶〜』(2007年5月16日発売)の収録曲に「ジャングルジム」という曲があります。
この曲の歌詞にはこんなフレーズがあります。
誰にも侵されない 心の中の小さな場所に あなたといる
ジャングルジム/榎本くるみ
このフレーズは藤原さんが旧「ジャングルジム」について語った“ジャングルジムと言う名の檻”という価値観に重なる部分があります。
さらにおもしろいことにこの曲の作詞はバンプのプロデューサーであるMOR氏との共作なのです。
榎本くるみさんの「ジャングルジム」が過去に藤原さんが作った曲ではないにしろ、MOR氏が関わっているので何かしらの影響はあると思います。
なんせMOR氏は藤原さんが書く歌詞をすごく理解している人なので、ボツになった旧「ジャングルジム」を違う形で世に出したいという思いがあったのかもしれません。
BUMP OF CHICKENのCDやDVDで「MOR」という表記を見たことがある人も多いと思います。この「MOR」とはバンプのプロデューサーを務める人のことですが、その多くは謎に包まれています。この記事ではBUMP OF CHIC[…]
BUMP OF CHICKEN「ジャングルジム」の歌詞の意味
「ジャングルジム」の曲のテーマ
他人と分かち合えない部分
「ジャングルジム」で歌われているテーマは“誰にでもある心の聖域のようなもの”だと藤原さんは話しています。
“聖域”という言葉から、それは誰も踏み入ることができない場所であることがわかります。
このテーマは他の楽曲でも歌われています。
分かち合えない心の奥 そこにしか自分はいない
beautiful glider/BUMP OF CHICKEN
分かり合おうとしたら迷子になる
セントエルモの火/BUMP OF CHICKEN
人はふとした瞬間に孤独を感じる時があります。たぶんそれは自分は他の人とは違うと感じた時に襲ってくる感覚だと思います。
もし本当に自分の心の奥を誰かと分かち合うことができたら、それはもはや自分ではなくなってしまいます。他者と違うからこそ自分でいられるのです。
藤原さんは昔のインタビューでこんなことを話していました。
「言葉とは自分の気持ちを伝える超能力のようなものだけど、言葉は気持ちに一番近いものを当てはめただけであって、本当の気持ちを相手に伝えることはできない」
「ジャングルジム」というタイトルの意味
自分の心にある子供の頃から育っていない部分
ジャングルジムは子供の遊具で、大人には小さすぎて中に入って遊ぶことはできません。
しかし《未だに心の本当は ジャングルジムの中にいる》というフレーズがあるように、大人になっても子供の頃から良くも悪くも育っていない自分の本質の部分があることを歌っています。
きっとその自分の本質の部分はどうやっても誰かに伝えることができない、分かり合えない光の当たらない部分で、地球からはどうやっても見ることができない月の裏側のようなものなのでしょう。
子供の頃から無意識に守っていた自分の世界
個人的な思い出になりますが、子供の頃ってなぜか「バリアしたから触っても意味ないよ」(えんがちょみたいな感じ)とか言ったり、押入れに入ったり、秘密基地を作ったり、ジャングルジムの中みたいな誰も入って来られない自分だけの場所を作っていた記憶があります。それは自分の世界に浸れる場所とも言えるかもしれません。
人間って幼い時から本質的に自分の世界観みたいなものを持っていて、無意識にそれを守りながら世の中との折り合いをつけているのかもしれませんね。
欠けた月の黒いところとは?
その日 僕を見ていたのは 欠けた月の黒いところ
「ジャングルジム」/BUMP OF CHICKEN
《欠けた月の黒いところ》とは先ほど述べた“誰にでもある心の聖域のようなもの”ですが、これを具体的に理解するには藤原さんがタイアップ曲を書く時のルールを知るのが分かりやすいかもしれません。
藤原さんはタイアップ曲を書く時は必ず、自分のフィールドとタイアップ作品のフィールドが重なる部分を描いていますが、私達もこれと同じようなことを普段からしています。
藤原基央のタイアップ時のルール
私達は誰もが自分の本質を守りながら、周りと合わせられる部分、社会と折り合いを付けられる部分を探しながら生きています。
周りと合わせられる部分が“月でいう所の輝いている部分”で、合わせられない自分の本質の部分が“欠けた月の黒いところ”なのでしょう。(下の2つの図を参照)
人は自分を守りながら社会と折り合いをつけて生きている
重なる部分の面積は人によって違いますが、社会と重なる面積が広ければ広いほどその人は社会で生きやすいと思います。逆に重なる面積が少ない人はうまく折り合いをつけながら生きなくてはなりません。
社会と合わせている部分
曲中には人間社会を象徴する乗り物である《電車》が登場します。
電車に揺られながら運ばれるシーンは、自分が社会に合わせている場所から自分のフィールドに帰るという意味なのでしょう。
そしてまた《ガタンゴトン ガタンゴトン 繋ぎ目を越えてゆく》という言い回しが上手いですね。自分の意思とは関係なく自動的に電車に運ばれている様子を表していて、みんなと同じこのレールの上には本当の自分はいないって感じを遠回しに表現している感じがします。
《転ばないように捕まって あるいは座って運ばれる》というフレーズも、電車の中の様子を社会に喩えて、レールから外れないように必死に捕まっている(合わせている)様子や、お行儀よくしている人たちの様子を見事に表現していますね。
人は誰ともわかり合えない、共有できないモノを心に抱えたまま周りと上手く合わせながら生きています。
そのわかり合えない部分があるからこそ、孤独を感じたり、他人と衝突したりするのですが、分かり合えないからこそ自分であることを辞めずにいられるのだと思います。
「カルマ」の歌詞に《奪われない様に 守り続けてる》とありますが、人は生まれた時から無意識に守り続けているアイデンティティという領域があるのでしょう。
学校とか会社にいる時に無性に帰りたくなったりするのって、欠けた月の黒いところを見ている証拠なのかもしれませんね。
ジャングルジムで伝えたいこと
「ジャングルジム」で歌っていることは、誰もが心の奥に誰とも分かち合えない部分を持っていて、他人や社会と自分との共通点をうまく見つけながら折り合いをつけて生きているということです。
心はジャングルジムの中に居て、体は電車という人間社会の中に居るという対比構造を持った歌詞になっています。
私達は無意識に自分の中にある聖域を守っていて、その領域を侵さずに生きる方法を探しているんだと思います。
たぶん人は誰もが心の中の光の当たらない黒いところを見ていて、その中から「この場所なら人に見せても大丈夫だな」というところを探す作業を繰り返しているのでしょう。
「ジャングルジム」で伝えたいことはさっきも言いましたが、誰もが自分のアイデンティティを守りながら生きているってことなんだと思います。
月の光は地球上の人が誰もが共有しているものですが、月の裏側は地球からは見えないのって人間と一緒で、宇宙ってほんとに良くできてますよね。